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広島高等裁判所岡山支部 昭和24年(を)641号 判決 1950年11月07日

被告人

石原正一

主文

原判決を破棄する。

被告人に対する本件起訴状記載の訴因中第一の(イ)、第二の各訴因に関する公訴は何れも之を棄却する。

本件起訴状記載の其の余の訴因に関する被告事件は之を倉敷簡易裁判所に差戻す。

理由

職権を以て調査するに、本件起訴状には訴因の第一の(イ)として「昭和二十四年三月頃から五月頃迄の間前後三回に亘り自宅で小野勇二郎から其の所有する小麦粉十八貫匁を代金五千四百円で買受け」と記載し第二として「右買受けた小麦粉及玄小麦を製粉し、之を原料として昭和二十三年十一月頃から同二十四年九月十七日頃迄の間被告人方工場で栗まんぢう及あんぱん(何れも其の他の菓子)を製造し、栗まんぢうは一個五円五十銭から八円で、あんぱんは一個十円位で(イ)何れも其の頃倉敷市新川町岡本マサエ方外十名方で同人等に対し、栗まんぢう合計二千九百八十五個、あんぱん合計二百六十個を、(ロ)更に其の頃同市昭和町両備バス待合室或は同市東酒津倉敷レーヨン工場寄宿舎前及倉敷紡績万寿工場寄宿舎前路上等で氏名不詳者等に対し、栗まんぢう合計一万九百五十個を、何れも所定の統制額より不当に高価である総代金十万六千六百十五円(超過額九万六千八十八円三十五銭)で各販売し」と記載し、右第一の(イ)の事実に付ては其の罰条として、食糧管理法第九条第三十一条其の他、第二の事実に付ては其の罰条として、物価統制令第三条、第九条、第三十三条其の他が記載してある。しかし刑事訴訟法第二百五十六条には起訴状には公訴事実を記載し、公訴事実は訴因を明示して之を記載すべく、訴因を明示するには出来る限り日時、場所、及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならぬと規定してある。其の趣旨は特定した訴因を明示する意味であつて、訴因が特定して居なければ何が起訴せられた訴訟の物体かが判明せず、又被告人に於て防禦権の行使に困難を来し、再訴の抗弁をしてよいかどうかも判らないからである。従つて訴因の特定は絶対であつて、これが特定していない起訴は無効であり、後日補正追完によつて有効となるべき性質のものではない。而してこのことは各訴因毎に要求せられるのであるから、数個の訴因が一括記載し、その間の区別が判明しない様な場合には、たとい同一の犯罪構成要件に該当する場合でも、右数個に記載せられた事実が法律上一罪を構成する場合でない以上、右数個の各訴因は夫自体特定して居るといふことは出来ない。従つて前記起訴状に記載してある訴因は買受又は販売した最初の日と最後の日、其の間の行為の回数、販売又は買受けた数量代金の合計額が一括記載してある丈けで、之によつては右数個の訴因を夫々特定せしめることは出来ないから、本決起訴状の中右訴因に関する起訴は其の手続が違法である為無効と解すべきところ原審は之を有効として公訴を受理し、之と他の訴因とを一括して審判したものであるから、此の点に於て原判決は全部破棄を免れない。

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